アメリカン・パワーの将来

<アメリカは他の諸国の台頭の時代に生き抜けるか?>


サブプライム問題に端を発した金融市場の混乱は、米国のみならず世界的に影響が現れている。Bush嫌いのご婦人によれば、彼のおかげで米国は今後50年間は衰退すると言っている。その影響でか、カルフォルニア州では圧倒的にオバマ人気が見られる。


さて最近米国で読まれている、Newsweek Internationalの編集者である Fareed Zakariaが Foreign Affairs, May/June 2008号に書いた上記の表題の記事をご紹介しましょう。
結論から言えば、過去英国は政治ではなくその経済に起因して衰退したが、米国以外の諸国の台頭の時代(Rise of the Rest)に米国が生き残るには、経済より政治がしっかりしなければならないと主張している。


以下その記事を私なりに勝手に要約して紹介すると次のようになる;
第二次大戦後米国は過去3度の危機を迎えた。一度目はロシアがスプートニクを打ち上げた時期、2度目は70年代のオイル・ショック時、3度目は80年代半ばの日本が将来技術的にも経済的にも米国に代わりスーパーパワーになると予測された時期である。しかしこれらの危機は、すべて米国の柔軟性、復元力で、誤りを修正し、回避することができた。


この様な柔軟性と復元力を支えているものは?軍事力、?起業力(The Entrepreneurial Empire)?教育力(特に高等教育)?経済力(the World Economic Forumは米国を最も競争力のある経済を持っているとしている。)?人口力である。
特筆すべきは人口力で、先進国およびBRICsの中で、米国・インドを除いて高齢化が進行するが、この問題を解決できるのは米国以外には無い。高齢化が進行すると、年金の問題の深刻化、技術・科学・経営力の衰退、貯蓄の減少と消費の増大(投資余力の減退)が顕在化し、国力を死に至らしめる(bad demographics are a killer disease.)事となる。米国の人口力の源泉はその移民力である。外国人学生および移民が米国の科学研究者の50%を占めている。シリコンバレーのスタートアップ企業の半分は移民や一世が起業している。又過去に多くの労働移民を受け入れたが、歴史的に彼らが労働力の中心勢力を占め、彼らの二世や三世は順次米国の主流に溶け込むことができている。この様な人口力のダイナミズムは欧州でさえまねが出来ていないし、将来的にも難しさを孕んでいる。


ただ前述の戦後3度の危機と、今米国が直面している危機と決定的に異なることは、今回は米国の力が相対的に低下し諸外国が台頭する、大きな歴史的な転換の時代、多極化の時代に入っていることである。ここでは、かつて経済を支える源泉として重要であった資本と労働力はコモディティーと化し、アイデアとエネルギーに取って代わられている(アイデアを測る経済統計はいまだかつて無い。)。米国の直面している問題は、アイデアとエネルギーの面で底力のある経済ではなく、諸問題を解決する能力を失っているように見える政治にある。医療・社会福祉・税制改革等多くの長期的展望を必要としている問題が山積しているにもかかわらず、短期的な視点でしか手が打てないと言う意味で、正しく機能していない。したがって現在米国が抱えている問題は、1900年頃に英国が持った問題とは異なっている。


我々は多極化の時代、ポスト・アメリカの世界に向かっているが、米国以外の国々が市場機能・民主主義を取り入れ、より開かれたわかり易い社会に向かっているという意味で、その変化は全体的に米国流になってきていると言える。そこでは米国が占めるスペースはより狭くなるかもしれないが、又同時に米国のアイデア・理想が主流になっていく世界でもある。米国はポスト・アメリカの世界が現実であることを認識し、その事実を受け入れ、政治的にうまく対応できれば、この変化著しい世界で引き続き中心的役割を果たしていけるであろう。


今の金融市場の混乱を目にすれば、彼の主張は若干楽観的に見えるが、私も彼が言う米国の底力・復元力を信じたい。