失敗を許す文化―#2

今日はアメリカ合衆国独立記念日です。
こちらの家庭では、子供も夏休みに入ったし、家族で休暇旅行を楽しむ人たちが多く、今週はハイウエーも若干空いておりました。しかし今日お届けする話題は独立記念日とは関係なく、失敗を許す文化の続編を書いてみたいと思います。


我々の投資先の一つStarGen社はBostonにあった、コンピュータ、通信機器間の相互接続用の半導体を開発・販売するベンチャー企業です。既存製品であるStarFabricは人気商品で、年々数百万ドルの売り上げを上げており,さらにアドバンスド・スイッチ(ASI)と呼ばれる新たな標準の上で動く新規製品StarXpressを開発しておりました。実は日本で純国産と言われているある会社の歩行ロボットにもこの会社の半導体が使用されております。
我々はその高い技術力とTim Millerと言うCEOの人柄を評価して投資いたしました。
しかし残念なことに、ASI標準の主力推進企業であったIntel社が突然手を引いてしまい、StarXpress開発は頓挫してしまいました。その結果2005年におこなった資金募集はリード・インベスターが決まらず失敗に終わり、次善の策としてその年末、ノールウエイの同業者で上場企業であるDolphin Interconnect Solutionsへ株式交換方式で買収されることになりました。
我々の投資持分は4分の一に減額され、Tim MillerはDolphin社の米国子会社のトップと言うことになりました。


さてここまでの話では良くあるベンチャー企業の失敗例の一つに過ぎませんが、最近Dolphin社から届いた連絡によれば、Tim Millerが今年7月1日からDolphin社のCEOに就任することに決まったということでした。これは日本の事例によれば、HOYAに買収されたペンタックスの元社長が買収後のHOYAの社長に就任することに当たります。
しかし日本では、多分このようなことが起こるのは極めて稀なことであると思います。日本での買収劇ではどうしても買収先の社長は負け犬と言う感がするのは私だけでしょうか?
私のパートナーであるHerman Whiteによれば、このようなことは米国では良くあることで、買収後の会社のCEOには買収先のCEOがなると言う条件付で買収が成立することもあるということでした。ここでお話ししているDolphin―StarGenの買収劇は国際的なものですが、これもまた“日本の非常識が世界の常識”と言うことの一例ではないでしょうか?


Tim Millerは、政府高官を父として、Pebble Beach GC沿いの豪邸に生まれた典型的なWASPエリートです。
Cornell大学の工学部を卒業し、 Pensylvania大学 Warton校のMBA とComputer Scienceの修士号を持っています。最初はBostonにある Digital Equipmentに入り、その後この会社の仲間数人と独立し、StarGenを創業いたしました。彼の活躍の場は東海岸でしたが、シリコンバレーに有力な顧客がいたことと、西海岸で生まれたと言うこともあり、しばしばサンフランシスコにも出張で来ており、そのたびに会っておりました。日本の技術系ベンチャーの創業者に良くあるタイプとは異なり、映画俳優張りのマスクとソフトな物腰の極めて魅力的な人物です。それでいて粘り腰で政治感覚もなかなかのものです。
それだからこそDolphin社の役員会もDolphin社の未来を彼に託したのでしょう。


日本でしたらこのようなエリートは、今でも多くはNTTや新日鉄のような大企業に就職し、ベンチャー業界には出てこないのではないでしょうか?また日本の上場企業が、たとえば米国のベンチャー企業を買収し、その買収先のCEOを、新たな体制でのCEOにすえるということが何時起こるのでしょうか?言葉は悪いですが、この買収劇で得をしたのは、上場企業のCEOになったTimであり、Dolphin社の販売代理店になった、元StarGenの日本代理店 StarBridgeの佐藤社長、およびTimという有能な人材とStarGenの技術を獲得したDolphin社ということになるでしょう。
StarGenの投資家から結果的にDolphin社の株主になった我々は、後数年後のTimの力量の成果に期待し、
夢を託すことになりました。


ご興味のある方は、www.dolphinics.comのInvestors/Reportsの Q1,2007Reportをご覧になってください。
Tim も含めたStarGenの面々の写真も載っています。